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高校入試に男女別定員って必要?-「性別欄」について考える

webサイト・いたみん(伊丹市ポータルサイト)3月号

「男と女の「おかしな!?」ハナシ」にコメントを寄せさせていただきました。

今回のテーマは、「高校入試に男女別定員って必要?」です。

https://itami-city.jp/mp/okashina_hanashi_hyogo/?sid=66715

 

【コメント部分】

昨年は、一部の大学医学部において、入学時の募集要項等に男女別の定員が書かれていなくても、入学選考時に「女」という理由のみで、女子受験生が不利益に扱われていたという事実(いわゆる、「医学部入試問題」)が明らかになりました。いわば「隠された男女別定員」なるものが存在していたことに、多くの人は非常に驚かされました。

この医学部入試問題は、医療現場における働き方(昼夜問わず働くことができる人材が求められ、子育てなどの家庭に責任を持つ医師にとっては働き続けることが非常に難しい状況にある)という構造的な問題についても浮き彫りにしました。

公平であるとの大前提を信じて疑うことがなかった入学試験においてこのような事実が明らかになった今、この医学部入試問題は、医学部に限らず他の分野においても、このような「入り口」において女性の参入自体が阻まれている例が、表には出ていないけれども実はまだ隠されているのではないか、その疑いの目を持つことを忘れてはいけないということを、私たちに改めて問いかけてくれているようにも思います。

 

さて今回のトピックスでは、こうした入学時の願書や就職活動における履歴書、さらには私たちの日常生活の中にある申込書やアンケート等の書面において、性別を尋ねる、「性別欄」について取り上げられていました。

このような「性別欄」が設けられている背景としては、たとえばトイレや休憩施設等を設置・管理するうえで男女別に人数を把握しておく必要があるとか、消費者の動向を探るため男女別に集計することに意義があるといったことが考えられるでしょう。

こうした背景事情を含め「性別欄」の存在自体、これまで合理的であるとして長く疑われることもありませんでした。しかしながら、私たちの社会には自らの性(戸籍上の性)に対し違和感を感じる人も少なからずいて、当事者を中心に、現在の「男」か「女」のいずれかに〇印をつけるという二者択一の性別欄の記載内容に疑問が呈されるようになりました。その結果、「男」「女」に加えて「その他」から選ぶという形の「性別欄」も登場し始めています。

しかしながら、自分自身の「性」については、積極的に明らかにする人もいれば、自分の中にとどめておきたい人もいます。「その他」が選択肢に加わったとしても、いずれかに〇印をつけること自体に抵抗を感じる人、できない人も存在するのです。

そこで、いずれにも〇印をつけなければそれで良いのかと言えば、こうした願書や履歴書、申込書等の記載に関しては、定められた記載項目に不備があれば、「記載漏れですよ」と指摘されるなど硬直的な運用が多く見られます。(たとえば、インターネット上での申し込み等の際には、入力に不備があれば、それ以上手続きが進まないということもよくありますね。)仮にそのために、大きな違和感や苦痛を感じながら記載を強いられたり、さらには申し込み自体を思いとどまらざるを得ない結果が生じたとなれば、それは全くあってはならない話です。

私たちの社会は、既存の仕組みや取り組みを変えていくことが非常に苦手であり、消極的です。しかし「性別欄」ありきでその記載内容(選択肢)をどうするかについて考えるのではなく、「果たして性別欄自体が、この書面には本当に必要なのか」という視点から、見直していく必要があるのではないでしょうか。

 

なお、法律相談では、体の性とこころの性に不一致を感じている相談者から、「就職活動中だけれども履歴書の性別欄にはどちらの性を書けば(〇印をつければ)よいか。戸籍とは異なる性を書いて問題はないか。」とのご相談を受けることもあります。

法的に言えば、たとえば、刑法上の文書偽造罪は、履歴書のような私文書の場合、他人の名義を偽って権限なく文書を作成することが問題となるのであって、文書内容の虚偽自体は問われませんので、仮に戸籍上の性と異なる性を記載しても罪にはなりません。また詐欺罪は、相手方を騙して誤解を与えることにより財物を交付させるなどした場合がこれにあたりますから、戸籍上の性別を偽ったからといって詐欺罪が成立するとはおおよそ考えられません。

そもそも履歴書に法律上の(戸籍上の)性別を書くことを定めた法律はありませんから、これを偽って記載をしたり、また記載をしなくても違法性はありません。仮に、就職をした後に、戸籍上の性別を書くべき性別欄にこれとは異なるこころの性を記載していたことが明らかになったとしても、そのことを理由に解雇が認められるかと言えば、その解雇には合理的な理由も社会的相当性も認められず、解雇自体が違法になる可能性が高いと考えられます。なお、男女雇用機会均等法では、募集・採用のときに性別を理由とした差別を禁止しています。従って、履歴書に書かれた性別とは異なる性別であることがわかったので解雇するとなれば、それは同法で禁止されている違法な解雇とも言えるでしょう。

ただしここまでは、履歴書の書き方に関する法的なお話です。

実際の就職(活動)のことを考えれば、次のようなアドバイスも考えられます。つまり、これから就職をして一日の大半を過ごし、長く勤めることになるかもしれない会社が、自分の性(からだの性、こころの性、性的嗜好等)を含め、ありのままの自分を理解し、自然に受け入れてくれる働きやすい職場環境であるかどうかは、就職先を選ぶうえで大切な要素と言えるでしょう。そのためには、たとえば、戸籍上の性とは異なるこころの性を持つ社員が実際に安心して働いているかなど、いわゆるセクシュアル・マイノリティにフレンドリーな会社を就職先の候補の一つにすることも考えられます。そのためには、あらかじめ自分で調べてみたり、就職説明会や職場訪問、就職面談の際に、率直にそうした視点から尋ねてみることも有効といえるかもしれません。

〔N〕

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