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避難所に「男女共同参画の視点」?-女性比率を高めることの意義について考える

webサイト・いたみん(伊丹市ポータルサイト)1月号

「男と女の「おかしな!?」ハナシ」にコメントを寄せさせていただきました。

今回のテーマは、「避難所に「男女共同参画の視点」?」です。

https://itami-city.jp/mp/okashina_hanashi_hyogo/?sid=66158

【コメント部分】

近い将来、日本列島に甚大な被害をもたらす可能性が言われている「南海トラフ地震」。先日も、この巨大地震が起きる可能性が高まった場合に、私たちがどのような行動をするべきかについて検討をした国の検討会による報告書が発表されました(内閣府中央防災会議ワーキンググループ)。この報告書に関するニュースを映像で見ていますと、その検討会の様子(会議が始まる前に委員等が着席している状況)が映し出されていました。

私自身、以前から、国や自治体等が様々な施策を決めるにあたってその方向性について話し合いをする審議会や検討会等のメンバーに、どのような女性たちがいて、会議に占める女性割合はどのくらいなのかということに関心があります。

しかしながら、今回のニュース映像でも、報告書を発表したワーキンググループのメンバーの顔触れに占める女性割合は、少ないものでした(内閣府の資料によれば、19名中4名(21%))。

国は、2013年5月に、「男女共同参画の視点からの防災・復興の取組指針」を定めています。この策定の背景事情のひとつには、東日本大震災において、衛生用品等の生活必需品が不足したり、授乳や着替えをするための場所がなかったり、「女性だから」ということで当然のように食事準備や清掃等を割り振られた避難所も見られた、ということがあったそうです。

その取組指針の中には、「防災対策に男女共同参画の視点を反映するため、地方防災会議における女性割合を高めること」と定められています。また国は「社会のあらゆる分野において、2020年までに、指導的地位に女性が占める割合が、少なくとも30%程度にする」との目標を掲げています。

地震の防災対策は、日本に住むすべての人(全人口の約半数が女性であることは周知のことです)にかかわる事柄ですので、国や自治体の防災施策の方向性を左右する地方防災会議においては、女性委員の割合が30%という数字でも少なすぎるとさえいえるかもしれません。

しかし現実の数字を見ると、平成29年度における地方防災会議における女性比率は、都道府県で14.9%、市町村で8.1%。兵庫県では55人中6人、10.9%にとどまっています(平成30年版防災白書)。

確かに「女性」だからというだけで、すべての「女性委員」が、たとえば避難所生活で起こりうる問題、課題について、生活実感に基づいた、解決に結びつく提言ができるとは限りません。一方で「男性委員」からであっても、ジェンダーの視点をもった、配慮の行き届いた声が届けられることももちろんあるでしょう。

しかし残念ながら、私たちの社会では、女性にとっても、男性にとっても、それぞれが生まれ、育ってきたあらゆる生活、環境の中にジェンダー(社会的に作られた性差)が組み込まれており、無意識のうちに多くの人が、女性ならでは、男性ならではの体験を積み重ねてきてしまっています。そして多くの場合、他者(たとえば女性)が感じるジェンダーの問題を、もう一方(たとえば男性)が真の意味で理解、共感できるかといえば、一方の(社会的な意味での)性に基づく体験がないがゆえに難しいことです。

だからこそ、社会の半分を占める女性たちにもしっかりと寄り添った施策が作られるためには、同じようなジェンダー体験を積み重ねてきたであろう女性が一定の割合で関わることが必要なのです。5%や10%といった少ない数字の女性(その中でもジェンダーの問題を意識している女性)が何らかの発言をしたとしても、それは単なる少数派が、例外的な話をしているに過ぎないと捉えられかねません。そこで、国が目標値として掲げる「30%」という数字の登場です。政治学の世界では、少なくとも女性が30%を超えることで、そこに「質的な転換」が起こり、これまでの社会では見向きもされなかったことが、社会全体のルールに変わっていく可能性を持つと言われています。

先の「男女共同参画の視点からの防災・復興の取組指針」は、東日本大震災でのジェンダーに関わる諸問題を背景に策定されました。しかし実はこうした事象は、私たち兵庫県内に住む人々が経験した、1995年1月の阪神・淡路大震災においても同じように発生していました。少なからずの女性たちが、書籍やシンポジウム等でそのことを発信していましたが、国や自治体の防災対策には活かされていませんでした。

国や自治体の施策の方向性を決めるべき場所において、影響力のある立場から、一定程度の割合をもった「声」として、こうした発信内容を届けていかなければ、残念ながら社会は何も変わらない、変えることはできない。女性たちの声を真の意味で社会に届けていくことはできないのです。

指針ができたことはひとつの成果でしたが、もうすこし遡って、違った視点から見てみると、そのような社会の仕組みの問題点、あり方を示したひとつの例だと言えるかもしれません。

防災、避難所のテーマに関連して、審議会、委員会等のジェンダー構成、女性の割合について、お話をさせていただきました。ぜひこれからは、ニュースにこうした会議の場面が映ったときには、「この会議には女性はどのくらいいるかな?」という視点からも見て、関心を持っていただきたいと思います。

〔N〕

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